リスボンに憧れながら世界の片隅で砂を掴む

本、ポルトガル語学習、海外移住よもやま話。(※在住国はポルトガルではありません。)

有栖川有栖『46番目の密室』。紙の本を買うべし。

有栖川有栖・火村英生シリーズの原点『46番目の密室』(新装版、講談社)を読了したのだが、この作品をまだ読んだことが無く、これから買おうとしている人に言いたい。

 

「電子版ではなく、紙の本を買うべし!」

 

何故かというと、「新装版のためのあとがき」に、綾辻行人氏に解説を書くよう依頼した旨が記載されているのだが、電子版には綾辻氏の解説が掲載されていないのである!綾辻ファンではないが、解説の存在を知ってしまった今、綾辻氏が何を書いたのかが気になって気になって仕方がない。本書電子版の最大の謎は綾辻氏の解説文である。

(本書に限らず、電子書籍は他作家による後書きや解説が削除されている事が多く、大変残念である。)

 

本の内容ではなく後書きの事を頭に書いてしまったが、一番気になった事なのだから仕方ない。

さて、本題。

私が初めて読んだ火村英生シリーズ作品は、『鍵の掛かった男』である。「いつどうして買ったのかわからない」積ん読本の中に紛れていたので期待していなかったのだが、有栖川有栖氏の人物描写の巧みさに驚いた。たまたま「被害者」を中心とした物語だったせいもあるかもしれないが、有栖川氏の人間観は単なる飛沫ミステリ作家のものではない。

だが、本作『46番目の密室』は……おそらく、初めて読んだ作品がこちらだったら、続けて同シリーズの他の作品も買って読む事は無かっただろう、と思う。本作のテーマは「密室」であり、「密室ミステリの有名作家が開催したクリスマスパーティーで、まさかの密室殺人事件が発生!犯罪心理学者・火村とミステリ作家・アリスの凸凹コンビが謎を解き明かす!」という内容なので、ミステリらしいと言えばそうなのだが、会話表現の非現実的な……漫画のような部分がどうしても気になってしまう。

 

「声を揃えて言うか?」

「ああ」

せーの。

──それがどうした?

 

上記抜粋は、火村とアリスが解いた謎に対しての感想を同時に述べる箇所なのだが、非常に漫画的ではないだろうか。成人男性が「せーの。」と声を合わせて何かの感想を言ったりするだろうか。どうも気になる。

 

また、クリスマスイヴの都会の様子について「この無宗教の国の都会では、とても正気とは思えない狂躁が繰り広げられていることだろう。」と言う描写があるのだが、これも引っかかる。確かに現代日本に国教は無いのだが、立派に(?)宗教だらけ宗教まみれの国である。統計は見ていないが、死後は仏教の僧侶に弔ってもらう予定の人が多いのではないだろうか。キリスト教徒もいるだろうし、あちこちに神社もあるし、石を投げれば新興宗教やらエホバやらの勧誘にぶつかりそうである。

「この無宗教の国では〜」は単なる作家アリスの感想であり、著者・有栖川有栖氏本人の日本観とは別かもしれないが。

 

さて、肝心の密室トリックについては、正統派でしっかり書かれている作品だと思う。が、私自身アツいミステリファンではなく、ミステリファンというよりも文学ファンなので、仕掛けに関しての細かい事は言えないのである。読んでいる途中で犯人がわかってしまうH野圭吾作品と比べたら遥かに良いトリックだとは思うのだが……。

実を言うと、アガサ・クリスティエラリー・クイーンディクスン・カーも読んだ事がないのである。だから、トリックに関しての評価は難しい、折角の密室小説なのに。

 

尚、海外の推理・探偵物ではウィルキー・コリンズの『月長石』を読んだが、あの作品は文句無しに面白い。日本語に翻訳されたものが紙の本で出版されていたと思う。英語電子版は米アマゾンで0ドルでダウンロード可能である。私はケチって英語電子版を読んだ。正直、洋書を一冊読み切るのは体力と気力が必要で面倒なのだが、これは本当に面白くて最後まで読み切ったし、時間があれば再読したい。近代の英国式ユーモアに興味がある人には全力で推薦したい一冊である。

 

有栖川有栖の話をしていたはずが、ウィルキー・コリンズを推して終わってしまった。