リスボンに憧れながら世界の片隅で砂を掴む

本、ポルトガル語学習、海外移住よもやま話。(※在住国はポルトガルではありません。)

おすすめポルトガル音楽(4)シアードへの愛。

あまりグチグチ書くのもジメジメ陰気でそのうちキノコが生えてきそうなブログだと思われそうなので控えたいのだが、10年ぐらいも住んで好きになれなかった国で(小綺麗な集合住宅の廊下に糞便が落ちている国である。好きになる人間がいたら、それはド変態である。)、好きでもない言語に囲まれて暮らしていると、うっかり他の在外日本人のキラキラ輝くブログを読んでしまった日には、両の目を焼かれるような激痛を心に感じる。リスボンに住んでいる日本人が、心の底から羨ましい。しかし「冠詞の使い方で苦しんでいる」レベルのポルトガル語力しかない私には、リスボン在住を羨ましがる資格などないのかもしれない。 

 

焦がれるような憧れの地、リスボン。その中でも有名なシアード地区を歌った歌がある。

 

アーティスト名:Gimba

曲名:Chiado

 

リスボン生活が羨ましい癖にリスボンに行った事がない上に詳しくもない為、"Chiado"は最初鳥の囀りの事かと思ったが、それでは歌詞の意味が通らない。YouTubeにあるミュージックビデオ内で流れる歌詞をじっくり見たところ、"Chiado"の頭のCが全て大文字だったので、固有名詞である事にようやく気づいた次第である。(曲の中で口笛が演奏される部分があるので、固有名詞でない方のchiadoとも無関係ではないかもしれないが。)

この歌は固有名詞や外来語、辞書に載っていない言葉が多く、訳すのに丸一日かかってしまった。その上、よくわからない部分があちこちに残っている。いつか完全に訳せる日が来るのだろうか。


上手く訳せなかった言い訳はここまでにして、まずはアーティストのGimbaについて。

本名はエウジェニオ・ロペス氏(ミドルネーム等略)、1959年生まれのリスボン出身。音楽家やプロデューサーとして活躍しており、歌の他に、ギター、パーカッション、フルート、ハーモニカの演奏が可能。

還暦を過ぎているという事で、Chiadoの曲調や歌詞の内容からは昭和臭……というか、「古き良き時代」の臭いがするのは仕方がない事なのかもしれない。だが、それが良いのである。

(Chiadoが入ったアルバム"Ponto G"は2018年リリースであるが。)

 

Chiadoの曲そのものについて。

導入はシャカシャカしたリズム楽器(何だかわからない)から始まり、軽快なピアノがダンスをするように飛び込み、Gimbaの歌声がちょっとした物語の語り手のように登場する。

歌の内容はそのままChiadoの街の案内のようで、リスボンに詳しい人なら相当楽しめるに違いない。ロシオ広場やカルモ修道院などの地名が歌詞の中に散りばめられている。『ペソアと歩くリスボン』を先に読んでいたなら、もっと理解が深まっただろうか。何せ、この歌、冒頭からペソアが登場するのである。ペソアのファンとしては大興奮である。

 

Diz a história de Lisboa

Do Bocage e do Pessoa

Que o Chiado é o coração da Capital

 

YouTubeの動画内からチマチマと書き写したものなので、大文字の部分は原文ママである。

ペソアと並列のBocageは、Manuel Maria Barbosa du Bocageというポルトガル詩人の事だと思うが、そちらの詩は読んだ事がない。そのうち探し出して読んでみたいが、詩は翻訳も解釈も難しいので今すぐは無理であろう。(それよりも今は文法を頭に叩き込まなければならぬ。)

さて、詩人から歌詞の内容全体に目を向けてみると、「ごちゃごちゃした中にも愛と希望に満ちたシアード」が上手く描写されている。

気取ったお姉さんも、汚れた小僧っ子も、威張った紳士も、御婦人も、居候も、みんな熱にうかされたようなシアードで、ハッピーに生きている。ストリートミュージシャンの音楽を聴き、神を信仰し、votação(投票)という人類の無形の財産を受け継ぎ、いつかはロケットだって飛ばすかもしれない。

リスボンっ子の、深い地元愛を感じる素敵な一曲である。

嗚呼、目を、心を焼かれる!リスボンが眩し過ぎて辛い。

 

 

最後に一点……いや、二点。

 

(1)YouTubeのミュージックビデオ内の写真のいくつかが(もしかして全部?)、ネットで拾ってきた写真のようなのだが……Gimbaよ、それでいいのか……。

 

 (2)Wikipedia日本版のシアードの由来に「エヴォラ出身の詩人でかつてシアードの住民であったアントニオ・リベイロ(1520年-1591年)が、地区を通称で『シアード』(靴のきゅっきゅっという音、の意)と呼んだのが元であると、広く知れ渡っている」と書かれているのだが、英語版だと"The toponym Chiado has existed since around 1567. Initially the name referred to Garrett Street, and later to the whole surrounding area. The most widely cited possible origin for the name is related to António Ribeiro (c.1520–1591), a popular poet from Évora who lived in the area and whose nickname was "chiado" ("squeak")."と書かれている。

アントニオ・リベイロが地区をシアードと呼んだのではなく、リベイロ自体の相性がシアードだったようなのだが(António Ribeiro O.F. (Évora, 1520? – Lisbon, 1591), known as O Chiado or O Poeta Chiado was a Portuguese poet.)、Wikipedia日本語版は間違っているのではないか。怪しい。