リスボンに憧れながら世界の片隅で砂を掴む

本、ポルトガル語学習、海外移住よもやま話。(※在住国はポルトガルではありません。)

本について

澁澤龍彦『高丘親王航海記』。エロス、そしてタナトス。

「航海記」の三文字を見て先ず思い浮かべる作品は何だろう。私の場合はスウィフトの『ガリバー旅行記』、もしくは河口慧海の『西蔵旅行記』である。 例によって『高丘親王航海記』は積ん読電子本の中に埋れており、いつどうして買ったのかも覚えていない。澁…

『世界をこの目で』。対極の人の目を通して外国を見る。

自分とは対極の世界に生きる人が書いた本 黒木亮氏の『世界をこの目で』を、何とか読了した。 「何とか」という副詞がついたのは、文章が酷いとか面白くないとかそういう事が理由ではない、むしろかなり興味深い内容であった。では何が問題だったかと言うと…

『カモメに飛ぶことを教えた猫』。ルイス・セプルベダ氏よ、永遠に。

この記事を書いている途中で、久々にWikipediaでルイス・セプルベダ氏を検索したところ、「新型コロナウイルス感染により、4月16日死去」との記載があり、呆然としている。 志村けん死去以来の衝撃を受けている。何故、世界はこんなことになってしまったのだ…

Twitterを捨てて本を読もう。金言を求める現代人へ。

今回の記事は、Twitter歴約10年の元ツイッター廃人である私が、Twitterをやめようかどうか迷っている人に捧げたい。 書き始めた途端にタイトルから離れるが、まずはペソアについて。 私がポルトガル語を勉強しようと志したきっかけ……それは、フェルナンド・…

ルッキズムの侵食による「イケメン京極堂」

イケメンな変わり者が大活躍!日本の探偵小説シリーズをはじめから hontoのブックツリーを眺めていたら、上記のようなタイトルと、京極夏彦の『姑獲鳥の夏』のカバーが目に入った。 京極堂シリーズの中で美青年と言えば探偵・榎木津だが、どうも彼の事を指し…

『プラテーロとわたし』。アンダルシアの美(ベリエーサ)

突然、世界中の港が次々と閉ざされ、「何処かへ旅する自由」が無くなってしまった。そんな時代、人間の心を慰めるのは、外国の美しい文学である。 ヘルマン・ヘッセが書き残したドイツの自然も素晴らしいが、スペイン・アンダルシアの詩人、フアン・ラモン・…

ヘルマン・ヘッセ『クヌルプ』。何もかもあるべきとおりに。

「何者にもなれなかった。」という考えに苦しめられている人に勧めたいのが、ヘルマン・ヘッセ『クヌルプ』である。 激務で心身がボロボロ、キャリアもコネクションも形成失敗。おまけに配偶者は反出生主義者となり、この人生で「親」になる事は無くなった。…

千種創一歌集『砂丘律』。手に取れば、アラビア。

発売時インターネットで話題になった歌集なので、ご存知の方も多いだろう。 著者千種氏は1988年生まれの中東在住(歌集『千夜曳獏』に経歴の記載がある。)、新しい世代の歌人である。故に、近代の歌人のように、「結核で死ぬ間際の最後の命を振り絞って産み…

ジョゼ・サラマーゴ『白の闇』。ノーベル賞作家が抉り出した「人間」。

あらすじ ある男が、自動車の運転席で信号待ちをしていた時、突然目の前が「真っ白に」なり失明してしまった……そこから本作のストーリーが展開する。白い失明は瞬く間に周囲へと広がってゆき、失明の感染を恐れた政府は患者たちを収容施設に放り込む。介助も…

貫井徳郎『乱反射』。犬のフンと時代の流れ。

貫井徳郎氏(の本)との出会いは、ミステリ小説『慟哭』であった。読んだのはもう一年以上前なので内容はうろ覚えだが、あの鉛のような読後感はまだ記憶の中にある。恐らく、その読後感の勢いで買ったのであろう、『乱反射』が電子書籍積読リストの中に埋も…

猫好き必読の書『猫と庄造と二人のおんな』。猫は死なない(重要)。

掲題の通り、猫は死なない。無事である。一番重要な事なので、一番先に宣言しておく。*1 さて、谷崎潤一郎と言えば、『春琴抄』や『痴人の愛』等のタイトルが高校現代文の教科書(もしくは資料集)に掲載されていたと思う。しかし肝心の作品の抜粋が教科書に…

加速する世界の気温は『華氏451度』ヘと上昇する

悲報。また洋書専門店が閉店。 華氏451度についてガッチリ書こうと思っていたが、また一件本屋が閉店するというニュースが入ってきた上に、それが新型コロナ前に通っていた洋書専門店だった為、悲しみのあまりやる気を失ってしまった。新型コロナによる不況…