リスボンに憧れながら世界の片隅で砂を掴む

本、ポルトガル語学習、海外移住よもやま話。(※在住国はポルトガルではありません。)

2020-08-01から1ヶ月間の記事一覧

有栖川有栖『46番目の密室』。紙の本を買うべし。

有栖川有栖・火村英生シリーズの原点『46番目の密室』(新装版、講談社)を読了したのだが、この作品をまだ読んだことが無く、これから買おうとしている人に言いたい。 「電子版ではなく、紙の本を買うべし!」 何故かというと、「新装版のためのあとがき」…

ルッキズムの侵食による「イケメン京極堂」

イケメンな変わり者が大活躍!日本の探偵小説シリーズをはじめから hontoのブックツリーを眺めていたら、上記のようなタイトルと、京極夏彦の『姑獲鳥の夏』のカバーが目に入った。 京極堂シリーズの中で美青年と言えば探偵・榎木津だが、どうも彼の事を指し…

言語に美しいも汚いも無い。汚れているのは心である。

それ、本当に中国語ですか? 「中国人観光客が騒がしい。中国語は本当に煩い言語だなあ、だから嫌いなんだ。」 インバウンドで沸いていた頃の日本からよく聞こえてきた台詞である。 だが、ちょっと待って欲しい。 その「中国語」とは、一体何を指しているの…

『プラテーロとわたし』。アンダルシアの美(ベリエーサ)

突然、世界中の港が次々と閉ざされ、「何処かへ旅する自由」が無くなってしまった。そんな時代、人間の心を慰めるのは、外国の美しい文学である。 ヘルマン・ヘッセが書き残したドイツの自然も素晴らしいが、スペイン・アンダルシアの詩人、フアン・ラモン・…

ヘルマン・ヘッセ『クヌルプ』。何もかもあるべきとおりに。

「何者にもなれなかった。」という考えに苦しめられている人に勧めたいのが、ヘルマン・ヘッセ『クヌルプ』である。 激務で心身がボロボロ、キャリアもコネクションも形成失敗。おまけに配偶者は反出生主義者となり、この人生で「親」になる事は無くなった。…

おすすめポルトガル音楽(2)現代の歌手による民族歌謡ファド

ポルトガルの民族歌謡と言えば「ファド」である……と言っても、ファドを聴いた事がある日本人はあまり居ないかもしれないし、ファドの存在すら知られていないかもしれない。知っている人は、ディープな民族音楽好きか、あるいはポルトガル旅行の際に聴いたか……

千種創一歌集『砂丘律』。手に取れば、アラビア。

発売時インターネットで話題になった歌集なので、ご存知の方も多いだろう。 著者千種氏は1988年生まれの中東在住(歌集『千夜曳獏』に経歴の記載がある。)、新しい世代の歌人である。故に、近代の歌人のように、「結核で死ぬ間際の最後の命を振り絞って産み…

ネイティヴと会話すれば外国語がペラペラになるという幻想

それは資本主義が見せる幻想 外国に住んだり、ネイティヴから教えてもらえば、外国語がペラペラになると勘違いしている人たちがいる。いや、勘違いしているのではなくて、自分が短期留学や語学教室の商売で儲ける為に、敢えてその考えを広めようとしているの…

働きたくない、という熱い想い。

ぼくは働く才能を持たないんだ。 『クヌルプ』(ヘルマン・ヘッセ、高橋健二、新潮社) 「海外で働きながら生活している。」などと書くと、とても意識高い人のように感じられるかもしれない。 「海外で働く」……この5文字だけで、タピオカのSNS映えなど一撃で…

ジョゼ・サラマーゴ『白の闇』。ノーベル賞作家が抉り出した「人間」。

あらすじ ある男が、自動車の運転席で信号待ちをしていた時、突然目の前が「真っ白に」なり失明してしまった……そこから本作のストーリーが展開する。白い失明は瞬く間に周囲へと広がってゆき、失明の感染を恐れた政府は患者たちを収容施設に放り込む。介助も…

外国人は聖人ではない。我々と同じ人間である。

「うちのフランス人はホニャララと言っていた。」 「同僚のマレーシア人はホニャララと言っていた。」 ネットを周回しているとこのような証言に出会う事がある。 ネットを周回しなくても、「フランス人は服を5枚しか持たない。」等の謎の本が量産されている…

海外生活で必要なもの。ラバーカップ。

日曜日にジョゼ・サラマーゴの『白い闇』を読み終えたので早速その感想を書きたかったのだが、月曜日という事でやる気が全く出ない。顔がずぶ濡れのアンパンマンの如し、である。それ故、お菓子を食べながら読み飛ばせる小話を書くことにする。 海外(途上国…

語学学習のモチベーションを維持する方法

私の場合、下記の方法で語学学習のモチベーションを維持している。 対象となる言語で書かれた文学小説や詩を読む(翻訳で構わない) 対象となる言語が使用されているラジオや音楽を聴く 心身を健康に保つ 上記1、2をやってみても微塵も興味が出ない言語はど…

貫井徳郎『乱反射』。犬のフンと時代の流れ。

貫井徳郎氏(の本)との出会いは、ミステリ小説『慟哭』であった。読んだのはもう一年以上前なので内容はうろ覚えだが、あの鉛のような読後感はまだ記憶の中にある。恐らく、その読後感の勢いで買ったのであろう、『乱反射』が電子書籍積読リストの中に埋も…

おすすめポルトガル音楽(1)農村ロック

先日ポルトガルのラジオ局ウェブサイトの話を記事に書いた。在宅勤務中延々とポルトガルの音楽だけを聴いており、ポルトガルがゲシュタルト崩壊寸前である。そんな中、いくつか素敵な音楽を見つけたので少しずつ紹介したい。 一年後でも、五年後でも、ポルト…

海を越えて世界へ浸食する『麦わらの海賊団』

「海外に行く前に、日本の歴史や文化の知識を身につけるべきである!」 「華人に漢詩を披露したら尊敬された!」 意識がチョモランマ並みに高い国際派日本人が、時折噴き上げる説である。 が、結論から言うと、何を身につけるかなんて個々人が好きにすれば良…

「いかがでしたか」なんて、本当は怖くて聞けない。そうだろう?

「書く」事。それは、私にとって呼吸するに等しい事である。 物心ついた頃から、いつも何かを書いていた。(精神的に追い詰められて自分を見失い何も書けなかった時期もあるが、その頃の事は思い出すだけで吐き気がする。) 勿論、書く事が好きな多くの人々…

猫好き必読の書『猫と庄造と二人のおんな』。猫は死なない(重要)。

掲題の通り、猫は死なない。無事である。一番重要な事なので、一番先に宣言しておく。*1 さて、谷崎潤一郎と言えば、『春琴抄』や『痴人の愛』等のタイトルが高校現代文の教科書(もしくは資料集)に掲載されていたと思う。しかし肝心の作品の抜粋が教科書に…